今まさに物流BCPの重要性が高まっている~「いつ来るかわからない」から「いつ来てもおかしくない」へ~

今回は中小企業診断士とし経営戦略や事業計画、営業戦略、物流改革などの支援を行う三村顧問より、コロナショック後、物流はどのように変化していくかについて寄稿いただきました。

◾︎顧問プロフィール
三村光昭(Office MIMURA 中小企業診断士)
住宅設備メーカー(東証一部)の営業課長、経営企画、グループ会社取締役、物流部長を経て退職。現在は中小企業診断士として活動中。経営戦略とロジスティクスを専門としたコンサルティングを行う。製造業での経験と中小企業診断士としてのスキルを活かして、中小企業・大企業の経営戦略、事業計画、営業戦略、事業承継、物流戦略、物流改善・在庫適正化などの診断・助言を行っている。大学・企業での講義・講演等多数。https://www.office-mimura.com/

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)は、人類の健康を脅かすとともに、世界経済の先行きを不透明にしています。IMF(国際通貨基金)は経済成長率に深刻な影響を与えるという見方をし、WEO(世界経済見通し)は大半の国の2020年成長率をマイナス成長になると予測しています。

今回は、日本の企業活動においていわゆるコロナショック後、経営にとって重要な物流がどのように変化していくかを考えたいと思います。

◆コロナショック以前からの兆候が、コロナショック以降に加速すると推察される変化

(1)BCP視点での物流拠点の再配置

2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震、2018年の大阪北部地震・台風被害などが発生した日本列島は、自然災害がいつ発生しても不思議ではありません。東日本大震災以降は物流BCPの重要性を認識する企業が増加し、関東地方に本社や拠点を置く企業の迅速な動きが記憶に残っています。関東地方は災害がいつ起きてもおかしくないと言われ続けていると共に、意思決定できる多くの役職者が勤務していることも一因だと思います。

阪神淡路大震災から25年が過ぎ関西人は忘れかけていましたが2018年の大阪北部地震と台風被害が発生。2019年には各地に台風被害が発生し、自然災害がいつ、どこにでも発生することを再認識させられる機会になりました。以降、物流拠点の再配置を課題化する企業が増加し、倉庫不足になったエリアもあります。物流拠点の分散化や、古い施設を統廃合する動きなどもあります。

 従来の自然災害がいずれかのエリアで発生した場合、他の拠点で業務を補完することや人的応援をすることが可能でした。

コロナショックは、発生予測も困難であるだけでなく、各地で頻発する懸念もあり、人の移動を抑制することもあり、モノの動きの急激な増減が経営を悩まします。コロナショックを契機に、企業は事業計画と物流BCPの見直しおよび体制づくりが喫緊の課題になっています。

(2)新型コロナウイルスの影響による変化(物流拠点)

コロナウイルス感染が発生した場合、その拠点は消毒の為にしばらく業務を停止せざるを得なくなります。その拠点に人の応援を出すことも難しくなります。

リスクヘッジの観点から、できる限り少ない人手で運営できるようにロボット・自動化設備などの導入、手荷役業務の削減などが課題になります。

荷主である製造業・商社が物流拠点を大型化・統合する施策の主な目的は効率化とコスト低減でしたが、近年の自然災害が多発以降リスクヘッジの観点から、物流拠点の複数化、最適配置に取り組みが進むことになるでしょう。機能が止まることの損失予測が多額になることから、新たな経営判断が求められます。

首都圏や近畿圏のDC拠点(在庫型物流拠点)の再配置の検討案として、1拠点に集約するのではなく複数拠点での在庫・出荷をするというしくみにすることで、もし1拠点が機能しなくなった場合は、他の拠点である程度の業務補完ができるようにする考え方があります。企業にとって売上構成比の高い商圏は、リスク回避策がビジネスを継続できるようにすることが重要なテーマになってきています。

(3)新型コロナウイルスの影響による変化(ドライバー不足)

近年はドライバー不足が顕著でした。2019年の消費増税後から荷動きが悪くなっている兆候がありましたが、2020年のコロナショック発生以降は、仕事が多忙になる会社と仕事が急減している運送会社に分かれているようです。運送会社は輸配送業務に応じた歩合給を導入する企業も多く、ドライバーは仕事が減ると収入減になります。コロナの影響が長引く場合、ドライバーは業界内転職または異業種への転職も考えることも予測されます。荷量が元に戻った際にはドライバー不足がより深刻な状況になる懸念があります。

平ボディ車ドライバーは、ロープ掛け、シート掛けなどの技能が必要であることから中高年ドライバーが多く若手が少ないことからも、平ボディドライバーは今後も不足すると予測されます。

(4)新型コロナウイルスの影響による荷主の施策及び運賃の変化の方向

平ボディなど特殊車両が必要な荷主、荷量の変化が激しい荷主は、今までようにトラックのスポット調達が困難になると予測する企業が増えています。迅速に対応する荷主企業は、スポット契約から期間契約によって囲い込みを進めており、平ボディ車や繁忙期のトラックのスポット調達はますます難しくなるでしょう。

荷主は荷量の平準化に取り組み、トラックをできる限り定期便化することが、荷主および取引先にとって最適なしくみになると考えるようになってきています。荷主は今まで以上に販売計画と輸配送量の予実精度が求められます。販売・生産・調達・在庫・配送の業務フローの再構築をする企業が、効率化とリスクヘッジの先進企業になりそうです。

運賃については、この数十年にわたって価格のダウンが続いてきましたが、コロナショックがこの価格転換期になる可能性が高くなるでしょう。

令和2年4月24日国土交通省より、改正貨物自動車運送事業法により設けられた「標準的な運賃の告示制度」に基づき、標準的な運賃が告示されました。現時点では貨物減少と原油価格が下がっているで、この運賃が直ぐに浸透する可能性は低いかもしれませんが、コロナショックが終息した場合に動きが出ると予測できます。運送会社はドライバー不足の対応と、2024年に迫ったドライバーの残業時間短縮に向けた施策を実践する必要があり、売上の減少にも耐えられる企業体質の強化には荷主との取引条件の見直しは避けられなくなります。今後、運賃または付帯経費が次第に上昇していくものと推測します。

(5)取引先とのパートナーシップ

運送会社の経営課題は多く、特にドライバーの拘束時間と作業内容の改善は喫緊の課題になります。

荷主企業は、運送会社とパートナーシップ関係を重視して、各社の課題解決に取り組むことが肝要です。従来のままの取引条件や業務内容を続けることは、運送会社の課題解決が困難のままになります。荷主も取引先を選別しますが、運送会社も荷主を選択する時代が始まってきています。荷主が、ビジネスを継続していくために必須である物流業務をいかに改善していくか、業務効率を向上させていくかが重要な課題になります。

コロナショックは、荷主企業と物流企業がパートナーシップを醸成するきっかけになりそうです。

まとめ

三村顧問のコラムはいかがでしたでしょうか。新型コロナウイルスのような感染症はもちろん、首都直下型地震や南海トラフ地震といった自然災害のリスクが叫ばれている今だからこそ、三村顧問のコラムにもあるように有事に備えた物流BCPの策定や見直し、体制づくりが重要になっていきます。

その一方で社内のノウハウやリソースだけでは、どう見直して良いかわからないこともあるかもしれません。そんな企業の経営者の皆様に、少しでもお役に立つ情報をお届けできればと思い三村顧問にコラムを執筆いただきました。GOING・GOING ・LOCALには三村顧問のような専門家の方々に多数ご参画いただいておりますので、専門家の力が必要な企業の皆様はぜひご相談ください。

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