【多拠点実践者の声 vol.2】家族で冬だけ湯沢に滞在する二拠点生活の新しい形。実践者の池辺さんにその想いを聞いてみた

地方移住、二拠点生活、多拠点居住、多様なライフスタイルが生まれ、実現がしやすい社会になっていますが、金銭面、仕事面、生活面でハードルが高いのが現状。とはいえ、まだまだ行動に移すのはごく少数。そこで今回は、「ハイブリット子育て」にこれから挑む生粋のバンライファーで動画クリエイターの池辺さんに、家族で二拠点生活を送る意義とそこにかける想いを聞きました。

YouTubeが日本上陸した2006年頃から、動画制作をスタート

ーーまず、今の仕事について教えて下さい。

池辺さん:映像制作、Web制作業務を行う会社を経営しています。もともとは、建築業界で現場監督をしていたのですが、当時、建築業界はバリバリの縦社会で、年をとらないと出世ができなかったんです。そのことに29歳の時に気づき、30歳で退職しました。

その後、4ヶ月間冬の時期カナダに、スキーバムをしに短期移住しました。その様子を動画配信したら面白そうと思い、当時はYouTubeがなかったので、Macの「Mobile Me(現 iCloud)」で、ダウンロード形式で動画配信していました。この時に、動画撮影・編集技術を身につけました。

ーー動画撮影の先駆けだったんですね。

池辺さん:YouTubeも、日本上陸した2006年頃に参入したので、翻訳しながら作業していました。その頃だと日本人で動画の投稿者だったのは、MEGWIN、HIKAKINくらいでしたね。あと、当時YouTubeは動画倉庫として使っている人が多くて、特にフィーチャーされることはなかったです。それこそYouTuber的な活動を開始したのはここ1年くらいですね。

ーーサイトを拝見したら、面白いイベントのMCって書かれていたのですが、こちらはどういうお仕事でしょう?

MCの仕事のことですかね。「青春!バカサミット」というイベントでMCをしたのが始まりで、他だと「アドテック東京」内で行われた「アホテック東京」でもMCをしました。僕は、あくまでポッと出のMCなので、基本的には面白いイベントに特化してMCをしています。僕のMCの強みは、台本がない中、流れに合わせてアドリブで対応できるところなんです(笑)。

ーーアドリブで対応って……。なかなかすごいですね。

池辺さん:他にも色々やっています。例えば、「日本おばかキッズ協会」の代表とか。ハロウィンでゾンビがブームになったときあったじゃないですか。子どものハロウィンはかわいいコスプレが多かったのですが、本気でゾンビやらせたらどうなるかということで、遊園地「ぐりんぱ」さんとともに、ゾンビの子どもを養成する学校「ゾンビキッズスクール」を開設しました。

ーーそこではどんなことをするんですか?

池辺さん:ゾンビメイクから始まり、歩き方、声の出し方までゾンビのハウツーをすべて教えます。最後、ステージで親御さんたちを怖がらせることができたら卒業ということにしました。これがちょっとブレイクしまして、NHKの天才テレビくんに金八先生のパロティキャラ「ゾンパチ先生」として出演しました。

ーーここからは、最近はじめたYouTubeについて教えて下さい。

池辺さん:一言でいえば、「一家で日本中を車中泊で旅する旅Tubeチャンネル」ですね。もともとサーフィンが好きなのですが、サーフィンをするベストな時間帯は早朝なんです。早起きして車で海まで行くっていうのをずっとやっていると、いよいよ「ビーチのそばで目を覚ましたいな」って思うようになって、車を泊まれるように改造したのが車中泊をはじめたきっかけです。そこに「vanlife(バンライフ)」というブームが重なって、今は「バンライファー」として活動しています。

ーー「vanlife(バンライフ)」の言葉の発祥は?

池辺さん:vanlife(バンライフ)ブームは、ラルフローレンのデザイナーのフォスター・ハンティントン氏が、バンで生活しているのをインスタにアップしまくって注目されたのが始まりです。今は、世界中でムーブメントになっていて、Airbnb‎(エアビーアンドビー)よりもハッシュタグの投稿数が多いんです。

「一年のうちを二つの拠点で住んじゃえばいいんじゃない」から始まった『ハイブリッド子育て』

ーーなぜ、二拠点生活をしようと思ったんですか?

池辺さん:夫婦で、都会だけでなく田舎でも子育てしたいねって話をしていて。僕らの世代は、自然豊かな環境、暮らしの中に密着した人々との交流、付き合い方ができる”地方”で育てたいという価値観を持っている人が多いと思います。首都圏だけで育つと、人と人のふれあいや繋がり、豊かな感性が欠けてしまうのではと思いつつ、一方で東京を離れるとグローバリズムや多様性といった新しい感覚や目まぐるしく変化する情報やそのスピード感に乗り遅れるんじゃないかという怖さもあります。

多拠点、二拠点、アドレスホッパーといった言葉を調べても、その事例のほとんどが単身の父だけで週末に地方の自宅へ帰るといったスタイルで、家族と離れている時間が多いんだなと気づきました。これは自分がやりたい生活じゃないと思って。だったら、一年のうちで首都圏と地方の二つの拠点に家族全員で住んじゃえばいいんじゃないって。わたしたちは、この首都圏と地方の両方に拠点を置く子育てを『ハイブリット子育て』と呼んでいます。これ、これからバズりますから覚えておいてください(笑)

ーー『ハイブリット子育て』というネーミング、確かにインパクトありますね!(笑)「湯沢に決めたきっかけは?

妻が電車の中吊り広告で、湯沢町の移住者募集を見つけたんです。うちらは、スキー大好き一家ですからすぐに決めました。あと、千葉では経験できないありえないくらい違う環境を選びたかったんです。湯沢は日本屈指の豪雪地帯ですから。

さっそく、移住に向けて今通っている小学校の校長先生に相談しました。すると、「40年間教師やってきたけど、こんな相談は初めてだ。すぐに答えが出せないから調べさせてくれ」といわれました(笑)

ーー確かに、前例がないですよね(笑)

池辺さん:だけど、「全面的にバックアップするから、こっちは任せて」とありがたい言葉をいただきました。いよいよ、次は湯沢の方ですよね。まず、湯沢町に住民票を移さず短期間だけトライアル移住し、地元の公立校に就学する『ハイブリット子育て』をしたいと熱いメッセージを送ったら、1週間後に快諾の連絡がきて、教育委員会につないでくれました。

ーー情熱が伝わったんですね。他の地域に住んでいても、区域外の学校に通うことは法律的に問題ないんですか?

池辺さん:実は、いじめで通えない、保護者の仕事の環境で引き取れないといった事情で、区域外の学校に通うことができる「区域外就学制度」という制度があって。今回は、保護者の仕事の関係という理由で、3ヶ月間の期間限定で湯沢町の学校に通う許可をいただけました。

とはいえ、前例がなければ行政は簡単に許可を出してくれません。僕たちは、たまたま、今千葉で通っている小学校の校長が教育委員会から来た方で、教育委員会の理事長に直接話を通してもらえたみたいなので、運が良かったかもしれません。

ーー3月以降も、二拠点生活を継続する予定はありますか?

池辺さん:長女が小学校を卒業するまでのあと4年間は、千葉と湯沢を行き来するライフスタイルを続けたいですね。なぜトライアルかといえば、まずは挑戦してみないとわからないからです。仕事もしかりですが、子どもたちが現実的に生活できるか、湯沢町の豪雪地帯に住めるか、とか。来年は違う場所にするかもしれないし、湯沢町かもしれないし、今回のトライアル移住を完了してみないとまだわからないです。

ーー二拠点生活における心配ごとはありますか?

池辺さん:仕事面ですね。拠点が変わっても、今まで通り仕事がもらえるかが不安です。湯沢の企業からの仕事を増やそうとも考えましたが、短期滞在だと難しいですよね。YouTubeの活動をはじめたのも、自分がコンテンツとなって稼げる基盤を作りたいからです。妻もオンラインサロンでやり方を学び、ブログを始めました。たとえ45歳でもまだまだ遅くないと思っています。

ーーということは、裏を返せば二拠点するなら仕事の環境を整えた方がよいということでしょうか?

池辺さん:それは違います。まずは思い立ったら行動することが大切で、解決策はあとから考えてもなんとかなります。見えない不安ばかり出てきて、出遅れたり、引っ込めたり、やらなくなる方が人生において大損害ですよ。なんかね、YouTubeで「自分の趣味に子供を巻き込むな」というコメントがあったんだけど、「うるせえ俺がボスだ、ボスについてくるのが家族だ」って思ったよね。まあそんなことコメントに書けないけどね(笑)大概、アンチコメントするのは行動できないやつですよ。やらなかったやつには答えは出てきませんから。

ーー湯沢ではどんな活動をする予定ですか?

池辺さん:今決まっているのは、毎日スキーをすることだけ(笑)。こどもたちは放課後に、僕らは仕事を夕方までに終わらせて一緒に滑りに行きます。せっかく、雪国に来ているのだから、千葉とは全く違うことしないと意味ないじゃないですか。

あと、可能ならPTAにも入りたいです。学校側から、「またぜひ来てください」といわれるか、「もう来ないでください」といわれるか、できる限り爪痕を残していきたいです。

ーー違う環境を体験させたいという想いはどこから湧いてくるのでしょう?

池辺さん:自分たちが親から与えてもらったからですね。今の自分の生き方、遊び方、ベースになる部分を作ってくれたのは親父なんです。毎年スキー、キャンプにつれてもらって、僕の中にはそういう選択肢ができているんです。東京生まれ東京育ちだけど、東北にスキーや伊豆下田の海にもなぜか毎年連れてもらっていたんだよね。

ガッツリ子育て中の40代だって、家族を連れて二拠点生活できるって。「もっと遊んで、もっとふざけようぜ。」

ーー今後の展望を教えてください。

池辺さん:多拠点、二拠点生活に関するサービスは増えましたが、単身者か若い夫婦・カップルばかりで、こどもを連れてアドレスホッピングしている人はほぼゼロです。多拠点やバンライフが若い人たちのライフスタイルで消費され終わらないためには、僕らのようにガッツリ子育てしている層が実行に移すことが重要です。

なので、今回のチャレンジが単発で終わらないよう、長女が卒業するまでは継続したいですね。そのためには、学校との連携、収入源の安定が肝になります。

ーー将来的には海外にも行くんですか?

池辺さん:そうですね。最終目標は、家族全員で「アメリカ大陸横断バンライフ」です。バンライフの頂点を極めたいですよね。5G通信が普及すれば、物理的にはオンラインで授業を受けられると思うので、旅しながら就学とかできたらおもしろいですね。

ーー最後に、メッセージがあればお願いします。

池辺さん:僕ら40代中盤は、子育てだけじゃなく、大企業ではリストラの対象に入っていたりして、慎重になってなかなか行動できない人も多いと思います。

だけどね、僕らはインターネット第一世代でありデジタル世代で、最もデジタルの過渡期を見てきている世代なんです。だからもっとこのインターネットを活用した働き方・暮らし方を活用できると思うんです。

ところが実際は昭和時代から同じような働き方や暮らし方しちゃってませんか?

だから、「40代もっと頑張ろうぜ」っていいたい。もっと遊んでもっとふざけていかないと。僕の座右の銘は、「人生楽しんだもん勝ち」。あらゆる環境に置かれても、楽しむか苦しむかは自分次第だと思います。二拠点生活に限らずだけど、何かチャレンジしたいことがあるなら、つべこべ言わずにまずやりましょう。だいたいは出来ない理由を探しているだけ。なんとなく楽しそうだから程度ならむしろやってみたほうがいい。やらないと、フィットするかどうかわからないですから。とにかく、声を上げて、変わろうぜ。

取材を終えて

「会社から給料をもらい続ける働き方より、やれることやりたい事をやりきる人生の方が良くないですか?今はそれができる時代だと思います。」と自分の気持ちに正直に従い、楽しそう・やってみたいという方向へ突き進む池辺さん。

その姿は、これから二拠点生活を歩まれる方だけでなく、何かにチャレンジしたいけど、あと一歩が踏み出せないという方にもぐさっと刺さる言葉ばかりだったと思います。

池辺さんは、この2020年の冬から家族で二拠点生活をスタートさせています。今後、この実験的な生活はどのような変化を遂げていくのか?池辺さんの活動から目が離せません。

龍佑俵谷

龍佑俵谷 (フリーランス/新しい働き方LAB)

大手IT企業でリスティング広告の運用業務に従事。その後ライターとして独立。グルメ、留学、睡眠、健康、経営、マーケティングなど執筆数は1000本超。SEOと読みやすさを意識したライティングには定評あり。特に、HR,地方創生というテーマが強いです。音楽サークル「MUSICROWD」の代表で、本職のSEOを活用し、ほぼWebのみで集客。LINE@会員数は1400人超。2020年からは、ランサーズの新しい働き方LABの京都キャンパスのコミュマネもスタート。2021年から京都⇔東京の二拠点生活に向けて準備中。

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