プロジェクトの背景と経緯
東京浅草に本社を構えるノア精密株式会社様(以下 ノア精密様)は、時計や計器類などの精密機器製造の分野で長年にわたり、消費者へ質の高い商品を提供しています。近年のデジタル化の急速な進展と市場環境の変化に伴い、同社も新たな市場動向への適応とブランド価値の向上が急務となっていました。
社内では、2018年頃に新しく設立したプロモーション室が、Webやブランディング領域を担う体制となりました。SNS発信などの広報施策や、オンラインショップ販売の取り組みなどをスタートさせた一方で、デジタルマーケティングやブランディング領域における専門知識と戦略的思考を持った人材が社内に不足していることは、経営にとって大きな課題となっていました。
また、プロモーション室のメンバーは他部署との兼任をしながらの事業推進であったため、スキル不足だけでなく、リソース不足も課題の1つでした。
このような状況の中、ノア精密様は外部からの専門人材の導入を検討することになりました。目的は、ブランディングの強化、そして社内におけるブランディング理解の向上を図ることです。外部からの新たな視点と専門知識を取り入れることで、既存の課題を克服し、社内内製化をすることで、社内外からブランド価値のさらなる成長を目指すことが狙いでした。
その後、トレジャーフットのプロジェクトが始まり、求められているブランド戦略、マーケティングの深い知識を持ち、長期的な視点で会社の成長を支えられるパートナーとなるプロ人材のご支援が始まりました。
マッチング人材
ノア精密様が直面する課題の解決と、ブランディングおよびマーケティング戦略の強化という重要な役割を担うことになったのは、ソニー株式会社でグローバルマーケティングコミュニケーションおよびブランディングの分野で実績と経験を積んだプロ人材のニコローバ・ビオリーナ様でした。
世界的なブランドのマーケティング戦略立案と実行に関わる豊富な経験で、特にブランドアイデンティティの確立とコミュニケーション戦略の策定において様々な成果を上げてきました。
ビオリーナ様は、フリーランスとして独立後には、地方創生から物流、鉄道、スポーツチーム、飲食業界に至るまで、幅広い分野でのマーケティング立案とブランディングのコンサルティングを提供していました。幅広い業界の特性を理解し、業界に最適なマーケティング戦略を立案する能力を掛け合わせて最大効果を発揮できるのが特徴でした。
社内における即戦力となり得るだけでなく、中長期的な視野を持ち、組織内でのコミュニケーションと教育を通じて社内文化にも積極的に貢献できるスキルを持っています。
支援開始後から柔軟かつ戦略的な思考能力を活かし、ノア精密様の現状と将来の目標に対して最適な解決方法を提供できるように支援いただきました。
打ち合わせでは、ビオリーナ様のスキルやご経験のみならず、明るいコミュニケーションや性格にて、円滑な進行と本音ベースでの議論を実現することができました。企業の軸を据えるブランディングプロジェクトだからこそ重要な、コミュニケーションとチームワークを重視する姿勢は、プロジェクトの成功を左右する社内外の関係者との調整や協働において、大きな役割を担うことになりました。
具体的なプロジェクトの進行
ノア精密様のブランディングとデジタルマーケティング強化プロジェクトは、当初は6ヶ月での契約でスタートしましたが、結果として2年半以上にわたりプロジェクトが進行しています。戦略的なアプローチと段階的な実行計画など複数のフェーズに分けられ、それぞれで具体的な目標と成果が定められました。
プロジェクトの初期段階では、まずノア精密様のブランディングに関する基本的な考え方を導入しました。最初に重視していたのは、企業としての向かうべき方向性を明確にし、存在意義を整理することでした。今後、会社としてどのようなターゲットからブランドを選ばれたいのかという観点をもとに、「誰のための、何のための、どんな軸を持つブランドなのか」という点の解像度を高め、ブランドアイデンティティを明確に定めました。
結果として、ノア精密様が持つブランドである「MAG」は、必要な時、必要なシーンで側にあるブランドと再定義され、「寄り添う」という機軸に基づいたブランディング戦略が策定されました。
プロジェクトの中期から後期にかけては、社内において「寄り添う」の自分ゴト化(インナーブランディング)を進めていくことに重点が置かれました。社内でのアンケート実施とその分析、社内勉強会の企画と実施が行われ、全社員がブランドアイデンティティと方向性を深く理解し、共有することを目指しました。
さらには、「寄り添い」という軸に合わせたコーポレートサイトの改修や、消費者に直接情報を届けることができるように、動画制作と広告の実施フォロー、Web公開、SNSを通じた情報発信の強化など、ブランド認知度の向上と集客のための施策が多角的に展開されました。また、SDGs(持続可能な開発目標)を起点としたブランドメッセージの発信強化、対外向けの発信導線の整備も進められました。
このように段階的に進められたプロジェクトを通じて、ノア精様はブランドアイデンティティの明確化と社内外への強力な発信体制を構築し、デジタル時代における新たな競争力を確立しました。プロ人材であるビオリーナ様との協働により、ノア精密様はブランド価値の向上と事業拡大のための強固な基盤を築くことができました。
直面した課題とその克服
今回のブランディングプロジェクトは、いくつかの課題に直目していました。
まず、ブランドアイデンティティが明確に定まっておらず、ECやSNSなどのデジタルマーケティング手法をどのような方向性で進めるべきかが決定できない状態でした。ECでの売上数字と、中長期の時間を要するブランディングの重要さを両立させることに悩みましたが、本プロジェクトを通して、軸となるものを決めることを先決させました。
ブランディングの軸を定めるにあたり、社内でのブランド理解の不足が課題として浮上しました。この領域では、全社員が新たに策定されたブランドアイデンティティを十分に理解し、それに基づいて行動をしてもらうことが非常に大切です。
そのために、ビオリーナ様主導で社内での勉強会やブランドに関する研修を実施し、社員のブランド理解を深める取り組みを行いました。特に、社員の中でもブランドを率先して体現する「エバンジェリスト」と呼ばれるメンバーを選び、彼らが中心となりながら、ブランディング活動を進めたことは、ブランドを浸透させることができた1つの要因でした。
社外視点でみると、ノア精密様は卸業を中心に事業を展開しており、顧客層の年齢が比較的高く、デジタル製品・デジタルマーケットとの相性が必ずしも良いとは限らないという課題がありました。特に店頭では実現できないWEBを使ったPRや訴求が必要な製品は、若い世代をターゲットにしている場合が多いので、既存の顧客層とのミスマッチが課題となっていました。
このような状況を鑑み、ノア精密様は30代から40代の顧客層への販路拡大も目指しました。これを実現するために、ブランドアイデンティティを明確に定め、その軸に沿ったブランディング戦略を策定したのです。
この新たなブランドアイデンティティは、今までの年齢層が高い顧客への価値観やメッセージを含むものであり、今までの顧客層と新たに狙っていくターゲット層にとっても寄り添いやすいものにしました。結果として、従来の卸業中心のビジネスモデルから、より広い顧客層を対象としたビジネスへとシフトすることができました。
最終的な成果、現状
ノア精密様のブランディングとデジタルマーケティングの強化に関するプロジェクトは、多くの課題に直面しながらも、最終的には大きな成果を挙げることができました。このプロジェクトにより、ノア精密様はブランドアイデンティティを明確にし、内部と外部に向けた一貫したメッセージを発信する体制を構築することに成功しました。
ブランドアイデンティティの明確化と戦略立案は、その後の施策の基盤となりました。しかし、ブランディング活動は明確に終わりがあるものではなく、アップデートを続けるものです。
すでに走り始めた施策や、アクションが明確なものは内製でも進められるよう、社内チームでPDCAを回しています。一方で、内製で進めた時の結果に対する評価や、ノア精密様にとって初めての取り組みとなる施策などは、引き続きビオリーナ様が伴走しております。最終的には、完全内製で社内だけで推進することを目指していますが、課題やアクションを切り分けることで、適切に関わり、施策の精度を上げ、ブランディング活動を継続しています。
デジタルマーケティングに関しては、コーポレートサイトの改修、SNSを通じた情報発信の強化、動画コンテンツの制作と公開など、多角的な施策が実施されました。商品自体にも「寄り添い」軸を反映できるよう、商品の梱包内にも、ブランドメッセージのための同梱物を作成しました。商品開発の背景となるストーリーや、実際に商品を活用した方の声、おすすめの使い方、ブランドを発信するためのインスタグラムのご案内など、説明書に頼るだけでなく、積極的にお客様に寄り添い、情報を届ける取り組みをしました。
これらの施策は、ブランド認知度の向上とターゲット顧客とのエンゲージメント強化に大きく寄与しました。特に、デジタルコンテンツの質と発信の一貫性が、ブランドイメージの向上と顧客との関係構築に効果を発揮し、ブランドのまとまりを作り上げました。
このプロジェクトを通じて、ノア精密様はブランドの現代化とデジタルマーケティング戦略の強化を実現しました。その結果、市場での競争力が向上し、新たな顧客層の獲得と既存顧客との関係強化が進んでいます。
この記事が、社内でスキル不足やノウハウ不足を感じられている企業様や費用対効果という面で、プロ人材への投資を検討されている経営層の皆様にとってご検討いただくきっかけになれば幸いです。ぜひお気軽にお問い合わせください。