はじめに
2025年2月23日、佐賀県唐津市厳木町の「道の駅 風のふるさと館」を拠点に「Challenge TERAKOYA vol.2」が開催されました。本イベントは、観光資源を活かし、地域全体の連携を深めながら、厳木の未来像を描くことを目的としています。
テーマは以下の二つです。
① 年間来場者数を増やす方法
② 客単価を上げる方法
当日はフィールドワーク形式で実施され、参加者は現地を巡って課題を探り、解決策を提案しました。TERAKOYA受講者や大学生、高校生、地元関係者など約40名が参加し、多様な視点から意見交換が行われました。
テーマ①:年間来場者数を増やす方法
【背景と課題】
現在「道の駅 風のふるさと館」の年間来場者数は約17万人。5年後に20万人という目標を掲げているものの、アクセスや認知度の課題がその達成を妨げています。
特に来年、「バイパス道路の無料化」により、道の駅を経由せずに移動する車が増え、来場者が減ることが懸念されています。
【現場での気づき】
参加者が車で道の駅「風のふるさと館」へ向かう途中、まず戸惑ったのは、案内標識の少なさでした。主要道路にも案内がほとんどなく「この先に本当にあるのか不安だった」という声もあり、初めて訪れる人にはわかりづらい立地であることが明らかになりました。到着すると、敷地内には高さ14メートルの佐用姫像がそびえ立ち、その迫力には驚かされるのですが、像の由来や意図を説明する表示はなく、“ただあるだけ”という印象にとどまっていると感じられました。
また、この像は、15分かけて一周回転する仕掛けがありますが、そのユニークな特徴がほとんど知られていないのが現状でした。ある参加者は、「この像を通じて地域の物語や歴史に興味を持てる導線があれば、もっと人を惹きつけられる」と語り、活用されていない現状に課題を感じていました。この気づきを踏まえ、次の提案が挙がりました。
【主な提案】
「道の駅の存在が目立たず、通り過ぎてしまいそうだった」という気づきから、道路標識や案内板の新設・改善が提案されました。特に、「厳木町に入った」と感じられるようなデザイン性のあるサインや、佐用姫のビジュアルを活用した目を引く看板など、単なる情報提供にとどまらない“引き込む案内”のあり方が模索されました。また、道の駅を訪れた記憶に残る体験として、佐用姫像を活用したフォトスポットの整備も挙げられました。
たとえば、像の回転に合わせて写真が撮れるベストアングルを示すサインや、スマートフォンをかざすとARで姫が現れる仕掛け、さらに、子どもが姫の衣装になりきって撮影できるスタンドパネルなど、思わず撮りたくなる演出が検討されました。
こうした施策と連動し、デジタル技術を使った観光動線の整備も提案されました。
LINE公式アカウントによるスタンプラリー形式での施設案内や、ARで佐用姫が地域の歴史を紹介する仕組みなどを通して、「道の駅を“通過点”から“体験の入口”へ」転換する可能性が示されました。なかでも印象的だったのが、佐用姫像を起点にした“物語で誘う観光体験”という構想です。姫の悲恋や旅立ちの物語を軸に、「姫が歩いた道」や「登場する場所」をめぐるミニツアーを設計し、町全体を一つの舞台として体験できるストーリーテリング型観光が提案されました。これは、観光と地域文化を結びつける切り口として、多くの共感を集めたアイデアの一つです。
【地元運営側の反応と今後】
「標識の不足は完全に盲点だった」「佐用姫を“ただあるもの”から“訪れる理由”に変える視点が新鮮だった」という声が多数寄せられました。
運営側は、自治体と連携した案内サインの整備や、佐用姫関連のフォトスポット・限定商品の試験導入を来年度に向けて検討する方針を示しました。
テーマ②:客単価を上げる方法
【背景と課題】
現在の平均客単価は約1,100円。午前中で野菜が品切れになるなど商品確保の不安定さに加え、休憩スペースや飲食環境の不備が、滞在時間や購買意欲を抑制しているという課題があります。
【現場での気づき】
参加者が午前中に道の駅を訪れた際、まず目についたのは、地元産の新鮮な野菜がすでに売り切れ始めていたことでした。
「お昼を過ぎると棚がスカスカだった」「欲しいものがもうなかった」といった声も多く、需要に対して供給が追いついておらず、売上の機会を逃している実態が明らかになりました。また、館内や周辺にはベンチや日除けが少なく、ゆっくり休める場所が限られているため、長時間滞在しづらい印象を受けました。
立ったままアイスを食べたり、車に戻って休んだりする姿も見られ、「せっかく来ても落ち着けない」という声も上がりました。さらに、売場の動線がわかりにくく、どこに何があるか一目で把握しづらいという課題もありました。「また戻らないといけなかった」「買いそびれてしまった」といった声から、買い回りを促す設計になっておらず、購買点数が伸びにくい状況が浮き彫りになりました。
【主な提案】
参加者からは「買いたくても買えなかった」「もう少しゆっくり見て回れたら他の商品も気になった」といった声を受け、商品力の強化と滞在環境の改善を両立させる提案が数多く挙がりました。まず、早朝に売れてしまう人気商品への対応として、特産品を活用した魅力的なセット商品の開発が提案されました。
たとえば、地元の温泉卵とご飯を使ったミニ丼や、日本一大きなソフトクリームに季節の果実やスイーツをトッピングした“佐用姫ソフト”など、「手軽で映える」商品が候補に挙がりました。こうした提案は、厳木ならではの体験価値を高める仕掛けとして注目されました。
また、リピーター獲得に向けて、季節ごとのアウトレット企画やSNS連動キャンペーンも提案されました。
「春の端境期セール」や「夏の冷やし野菜市」などのイベントに加え「#佐用姫スイーツ」といったハッシュタグ投稿企画では、毎月プレゼントを贈る仕組みも想定されており、“また来たくなる理由”をつくる仕掛けとして効果が期待されます。あわせて、滞在環境の改善策として、ベンチや日除け、キッズスペース、スマホ充電ステーションの設置なども提案されました。とくに子連れ客や高齢者が安心して過ごせる空間づくりは、「誰にとっても過ごしやすい道の駅」を目指すうえで重要な視点とされました。さらに、周辺のキャンプ場や空き施設と連携した“泊まれる道の駅”構想も提案されました。
地元食材での朝食提供や、農業体験とセットになった宿泊プラン、ワーケーションの受け入れ体制づくりなど、「買って終わりから、過ごす目的地」への転換を見据えた長期的なビジョンが描かれました。