はじめに
トレジャーフットの新規事業、「FUERUCO」プロジェクトの一環として、オンラインイベントが開催されました。本イベントでは、ゲストスピーカーとして田尻大智氏(Relier81ルリエ エイトワン創業者・事業推進責任者)を迎え、布田尚大氏(ソーシャルM&AファームGOZEN代表・株式会社トレジャーフット 金融事業部 部長)がファシリテーターとして対話をリードし、田尻氏のM&A成功の秘話を深掘りました。この取り組みは、「FUERUCO」ローンチ記念対談で語られた「不易流行」を実践する試みとして位置づけられ、地域産業を未来へと繋ぐ新たな一歩となります。
クロストークセッション
Relier81のM&A実現に至った理由とタイミング
田尻氏は2018年にRelier81を設立し、日本の伝統文化である着物や帯をアップサイクルし、現代のライフスタイルにマッチする商品を展開してきました。同社は「日本の伝統を現代に蘇らせる」という明確なミッションを掲げ、高いデザイン性と機能性を兼ね備えた製品を生み出しています。その結果、Relier81は国内外で注目されるブランドへと成長し、伝統文化を大切にしながら新しい価値を提供する姿勢が評価されてきました。
しかし、創業5周年を迎えた2023年、次の5年を見据えた事業運営の中で、単独での運営に限界を感じ始めました。この最初の5年間は、ブランドの認知度を高め、信頼を獲得しながら、売上を伸ばすために全力で駆け抜けた時期でした。しかし、ブランド拡大に必要な資金や人材リソースの不足、大きな意思決定を一人で担う孤独感が課題として浮かび上がったといいます。
そんな中、M&Aという選択肢を考える契機となったのは、「OYAOYA」の小島氏をはじめとする身近な支援者からの助言でした。「OYAOYA」は京都発祥の企業で、地域の農産物や伝統を活かした事業を展開し、過去にM&Aを成功させた経験を持つ会社です。この助言が、田尻氏にとってM&Aを現実的な選択肢として認識させる重要なきっかけとなりました。
最終的に、M&Aを決断した背景には、自身が抱えていた課題感と周囲からの支援があったと言います。
「事業の成長段階でM&Aが適するタイミングが自然と見えてくることがある」
彼が描く次の5年の目標(ブランドの成長や理念の継承)とM&A戦略が完全に一致していたことが成功の鍵となったと布田氏はコメントしています。
ディールを進める中で直面した課題
最大の課題は、「相手先との信頼構築」と「ブランド価値の維持」でした。Relier81の理念である「日本の伝統文化を現代に蘇らせる」を深く理解し、それを発展させてくれる相手でなければならないという強い信念を田尻氏は抱いていました。「Relier81は自分の分身であり、その未来を他者に託すことには迷いもあった」と田尻氏は語り、理念の共有こそが事業譲渡の成否を分ける本質的な要素だったと振り返ります。
そして、理念を共有できるパートナーとの信頼関係を築き、周囲の支援を受けることで、これらの障壁を一つ一つ乗り越えることができたと述べています。
布田氏も「M&Aを成功させる鍵は、数値評価ではなく、創業者の想いや理念を共有できる相手を見つけることです」と指摘しています。
M&Aを進める中での心の変化
田尻氏は、M&Aを進める中で自身の心に大きな変化があったと言います。Relier81は「自分の分身」と言えるほど情熱を注いできたブランドであり、それを手放す決断には葛藤が伴いました。しかし同時に、さらなる成長のためには新しい資源や知識を持つパートナーの存在が不可欠であると理解し、M&Aを受け入れる決意を固めました。
プロセスの中で、譲渡先のパートナーとの対話を重ねたことで、Relier81の理念を尊重し、その価値を引き継いでくれると確信できた瞬間、不安は安心感へと変わった語りました。「対話を通じて、相手の誠実さや理念への共感を感じることで、ブランドがこれからも大切にされると信じることができた」と振り返ります。
さらに、M&A後には、自身の役割が変化する中で、新たな視点と余裕を持つことができるようになったそうです。それまで全ての責任を一人で背負い、事業を推進していた状況から、信頼できるパートナーと責任を分かち合うことで、事業運営への新たなアイデアや視野が広がりました。自分一人では思いつかなかったような成長の方向性や可能性が、他者との協力を通じて明確になるのを実感したといいます。
「信頼できる相手との出会いが創業者の心の支えになる」
布田氏は、このプロセスが田尻氏にとって大きな安心感をもたらしたと述べています。
周囲の反響と業務外での変化
M&Aが成功したことで、田尻氏の周囲には大きな反響が広がりました。地域コミュニティや業界関係者からは、「Relier81が次世代へ繋がって本当に良かった」という感謝や祝福の声が寄せられ、この決断が正しかったという確信を深める支えとなりました。
布田氏も「Relier81の事例は、地域産業を未来へ繋ぐ模範的な取り組みであり、その社会的意義は非常に大きい」と評価しています。
譲渡後、田尻氏はRelier81の運営業務から解放され、これまで手が回らなかった新たなスキルの習得や家族との時間を持つ余裕が生まれました。それまで、ブランドの戦略立案、販売管理、職人やパートナーとの調整、経営全般の意思決定など、幅広い業務を一人で抱え、ブランドの成長に尽力してきました。しかし、その一方で、大きな負担となり次第に限界を感じていたと言います。
事業を信頼できるパートナーと共有することで、田尻氏は心に余裕を取り戻し、M&Aを通じた地方企業の再構築や成長支援、外部人材との連携による地域活性化に加え、伝統工芸品(例えば有田焼)の海外展開を通じて日本文化の価値を世界に広めるといった壮大な挑戦への意欲を新たにしました。「未来を他者に託す」という経験を経て、これまで気付かなかった可能性を見出し、視野を大きく広げたと語っています。
このプロセスは、単なる事業承継を超え、創業者として新たな成長と可能性を切り拓く貴重な転機となったのです。
「思いを共有するM&A」が生み出す未来
株式会社トレジャーフット代表の田中氏は、今回のM&Aを「日本の伝統文化を未来へ繋ぐモデルケース」として評価しました。「事業規模や収益だけでなく、価値や理念を次世代に引き継ぐ成功例は、多くの事業者に希望を与える」とその意義を強調しています。
また、Relier81が地域産業におけるM&Aの可能性を示したことを挙げ、「M&Aは理念を共有し、未来を繋ぐ架け橋となる」と述べました。さらに、田尻氏の成長や、地域内での資源循環がもたらす経済・人材育成効果にも触れ、「思いを共有するパートナーとの出会いが事業の未来を広げる」と締めくくりました。