はじめに
2024年10月25日、佐賀県主催の「SAGA Smart Terakoya」シリーズ第4回「案件獲得に向けた事前準備」が開催されました。本セミナーは、フリーランスや複業を行う個人が、案件を効果的に獲得するための準備を学ぶことを目的としており、講師は株式会社トレジャーフットの取締役兼コミュニティマネージャーの辻 麻梨菜(つじ・まりな)氏が担当しました。講座では、案件獲得のための商品設計や自己紹介資料の作成、顧客価値の見える化など、実践的な内容が3部構成で展開されました。
第一部:商品チェックと顧客の見える化
まず、「売れる商品」を作るための基本ステップとして、以下の3つの段階を提示しました。
1.売上を最大化する商品設計
参加者には、自分が提供する商品やサービスを効果的に設計する方法が解説されました。重要なのは、顧客がその商品の「価値」を具体的に感じられるかどうかであり、これは「購入後に支払ったコスト以上のリターンが見込める」と感じられるかにかかっています。「売れる商品」とは、単に利益を得るものではなく、顧客の期待を超える価値を提供し続けることが重要です。
2.価値を伝える営業ツールの準備
案件を効果的に受注するためには、必要な営業ツール(パンフレットや商品紹介資料)の準備が求められます。会社で用意されているような営業資料を個人事業者やフリーランサーでも用意することで、クライアントへのアプローチがスムーズになります。準備したツールは、すぐに活用できるような状態にしておくことが推奨されました。
3.商品を届けるための営業
設計した商品をクライアントに届ける営業活動も重要なポイントです。ここでは、顧客に自らの価値を積極的に伝え、ニーズに合わせた提案をすることが目標となります。「自分の価値を伝え、相手が納得する形で提案することが、案件獲得のカギ」で、顧客にしっかりとアピールする営業姿勢が重要になります。
顧客バリューと商品耐久度の重要性
次に、案件獲得および長期的な顧客維持を目的に「クライアントバリュー」と「商品耐久度」という2つの指標が提示されました。
・クライアントバリュー
クライアントバリューとは、クライアントが商品やサービスに対して感じる価値のことです。「クライアントが商品やサービスに期待する価値を確実に提供することが何よりも重要で、案件を成功に導くには、単に受注するだけでなく、クライアントが求める価値を的確に理解し、それに応え続ける姿勢が不可欠です。こうした価値提供は案件の受注率を高めるだけでなく、継続契約やリピート、さらには単価アップにもつながるため、顧客にとっての価値を常に意識することが推奨されます。
例えば、辻氏が担当した「街づくりプロジェクト」では、クライアントが求めていたのは「都市開発の長期的なビジョンに基づく具体的な計画提案」でした。しかし、初期段階でのヒアリングが不十分だったため、提案内容が期待する水準に達しておらず、進行中に「この部分も対応してほしい」といった追加要望が相次ぎました。これにより計画が複雑化し、スケジュール通りに進行できない部分が発生しました。
この経験から、初期段階でクライアントのニーズをしっかりと掘り下げる重要性が実感されました。その後、追加の調整を行い、「具体性の高い提案」や「持続可能性を考慮した視点」を盛り込んだことで、プロジェクトの最終成果は期待を大きく超えるものに仕上がり、結果的に長期的な信頼関係の構築に繋がったようです。
・商品耐久度
「商品耐久度」とは、サービスを長期的に無理なく安定して提供できるかを示す指標です。特にフリーランスや複業では、仕事と健康、プライベートのバランスを保ちながら、継続的に価値を届けることが求められます。一時的に高い報酬を目指すよりも、毎月安定した収入を得られる案件を持つ方が、安心感があり、生活全体の安定につながります。
例えば、短期間で高報酬のプロジェクトに取り組む場合、厳しい納期や集中的な作業が重なることで、体力的・精神的な負担が大きくなり、他の仕事に手をつける余裕がなくなることがあります。さらに、プロジェクトが完了した後、次の案件を探すための時間が必要になる場合があり、その間の収入が途切れるリスクも生じます。
だからこそ、仕事が継続的に発生する「案件の持続性」や、自分が無理なくこなせるスケールかどうかを見極めることが重要です。こうした視点を持つことで、長期的には安定した成果を得ながら、自身の健康と生活のバランスを守る働き方が実現できます。
第二部:相手に伝わる自己紹介資料(前編)
第一部では、売上を最大化する商品設計や営業ツールの準備について解説しました。この基礎を踏まえ、第二部では、自分自身をクライアントに効果的に伝えるための自己紹介資料の作成に焦点をあてています。商品の魅力を伝えることと同様に、自分の価値を正確に伝えるためのツールは、案件獲得において不可欠な要素とされています。
この自己紹介資料は、相手に自分の経歴やスキル、価値観を伝えるための営業ツールであり、辻氏はシンプルな「1枚もの」と詳細な「複数ページ」の2種類を準備することを提案しました。
1枚ものの資料は「名刺の拡張版」としての役割を果たし、名刺交換やカジュアルな場面でさっと渡せる簡易的なツールです。一方、複数ページの資料は「実績やスキルをじっくり伝える冊子」のようなもので、事前に送付することで面談当日により深い議論を引き出すきっかけを作るものとされています。
自己紹介資料には単なるスキルや価値観の羅列ではなく、過去の実績やクライアントにとっての具体的なメリットを盛り込むことが重要とされます。この工夫により、資料が単なる自己紹介の枠を超え、相手に「この人に頼みたい」と思わせる効果的な営業ツールとなるのです。
第三部:相手に伝わる自己紹介資料(後編)
第三部では、参加者が自己紹介資料を作成し、グループ内でフィードバックを行うワークを実施しました。テーマである「案件獲得の成功は事前準備にかかっている」を実感しながら、具体的な自己アピールの改善方法を学びました。
ワークの成果とポイント
1.印象に残るポイント
魅力的なエピソードや要点が明確な資料が高評価。特に「具体性」がクライアントの記憶に残る重要要素として再確認されました。
2.改善点
情報過多で焦点がぼやけると、クライアントに価値が伝わりにくいことが指摘されました。専門用語や冗長な表現を控え、簡潔で分かりやすい資料作りが求められました。
3.デザインとレイアウト
資料の視覚的な整理で印象が左右される。余白や配色、フォント、アイコンの工夫で見やすさを向上させる重要性が共有されました。
自己紹介資料は案件獲得の重要なプロセスであり、特に冒頭に価値提案を配置し、クライアントに具体的なメリットを伝えることが効果的であると再認識されました。今回のワークを通じて、自己アピールの改善と資料の完成度向上が次のステップへと繋がることが伝えられました。