今回はトレジャーフットで、プロ人材として活躍していただいている渡部兼蔵(わたべ けんぞう)さんにインタビューを行いました。渡部さんのこれまでのキャリアから、得意領域、今実施しているプロジェクトや今後について、深くお伺いしました。
1990年生まれ、小田原出身。アーバンリサーチで店舗立ち上げを経験後、エン・ジャパンにて組織制度設計や採用支援に従事し、新規営業で全社1位、MVPなどを受賞。グループ会社への出向や経営戦略室での経験を経て、スタートアップの事業・採用・組織戦略を幅広く支援。NEW STANDARDでは社長室・HRを兼務し、経営企画から理念浸透・評価制度設計までを推進。トラストリッジでは経営企画とブランド戦略を担当し、現在はCrown Cat株式会社にてCOO兼CHROとして、組織開発や事業支援に取り組む。複数スタートアップのアドバイザーも務める
◆“HR”と“経営”の両側面から伴走する
━━ 渡部さんのこれまでのご経歴について教えてください
高校卒業後にアメリカのポートランドの大学へ通っていましたが、様々な事情があり、帰国しました。その後にアパレルで働いていたのですが、ご縁があってエン・ジャパン社に入社しました。人材紹介の営業から始まり、マネジャーなども経験しまして、ありがたいことに入社から1年ほどで経営企画のチームに異動をさせていただきました。その後は新規事業開発を担当したり、会社が買収した企業に新規事業メンバーとして出向したりするような経験もさせていただきました。
その後、スタートアップ企業での、資金調達後の事業責任者を担当したり、もう1社では、事業開発・採用・マーケティングとかなり幅広い事業を経営者と同じ目線で推進していました。現在のCrownCat株式会社は、代表が私の1つ上の先輩ということで、立ち上げから関わっており、COO兼CHRO(最高人事責任者)として働いています。事業開発から、組織開発・採用などのHR支援など、様々なプロジェクトの支援を行っています。
特に、ここ数年は「AI領域」にも注力しています。会社としても大きく舵を切り、「AIの民主化」を掲げて取り組んでいます。HR×AIの文脈でコンサルティングを行ったり、プロダクト開発を進めたりしています。
━━ 渡部さんとはHR領域が専門かと思いますが、ご自身の強みはどのような点にあると思われていますか?
もちろん採用や組織開発など「人」に関わる部分はたくさん経験してきました。その上で、私の強みは、そのHRと「事業」の両方を経験してきたことだと思います。
企業がよく直面する課題に「HR(組織運営)に注力すると事業がうまくいかず、逆に事業に集中しすぎるとHRがうまくいかなくなってしまう」ということがあります。両方をセットで考え、経営というものをしっかり形作っていくことが重要だと思います。
ですので、HRを軸にしながら経営全体を見ることもあれば、事業開発や経営戦略から入ってHRを見ることもできることが、私自身の強みです。実際に、スタートアップとかでは、1人で何役も担うので、「総合格闘技」と例えられることもありますよね。
━━ 経営に直結したHR領域ということですね。
最近だと、戦略人事と呼ばれることもありますが、ただ単純に、「人を採用し、育成すれば良い」という部分最適な見方をするのではなく、経営を伸ばすための資源としてHRをどう見るかという点も大切です。
どんな仕事でも、どんなテクノロジーでもやっぱり会社の資源は「人」です。少しドライな表現をすると、どのように「調達」して、「加工」するか、この領域は、本当に多くの課題やプロジェクトと向き合ってきました。
━━ 特に、どの時期に、そのプロフェッショナルさが磨かれたのでしょうか?
ターニングポイントとなったのは、前職で会社を買収し、子会社へ出向した時の経験です。自社商品も明確に定まっていなかったり、採用体制も全く整っていない中で、事業再生に近いことをさせていただきました。
そのため、そもそもの目標・ゴール設計と、その逆算から、「市場規模はどれぐらいなのか」「このサービスは本当に魅力的なのか?」「どんな会社ならメンバーが入りたいと思うのか?」などの問いを考えました。現場でも、組織を作る難しさや、自分より年齢が上の方のマネジメントなどにも苦労しました。「1個上の視点」で会社を語っていくことで成長できたのではないかと感じています。
◆プロジェクトの支援スタイルや”両側面”を考える支援とは
━━ 渡部さんには、どのようなお悩みが来て、プロジェクトになっていくことが多いのでしょうか?
最初にいただく相談は、やはり「人が足りません」とか「どうやったら人が採れるんでしょうか?」などの採用に関わる内容が多いです。あとは、育成や職場環境などの悩みも、経営者の方は、ほぼ間違いなく抱えていらっしゃいます。そのような入口から関わるケースが多いです。
まずは目の前の課題を解決するために、「こういう求人媒体がありますよ」とか「こういう採用手法が効果的ですよ」といった話をすることも多いです。
━━ そこから、HR全般や経営のご支援になることも多いですよね?
そうですね。僕が最初にお話しするのは、「そもそもHRって経営に直結してますよね?」という前提の話です。
一旦上流を見ようとすると、根本的な部分に話が広がっていくんです。
例えば下記のようなものです。
「じゃあ、そもそも自社のサービスって本当に誇れるものなのか?」
「会社はどこを目指しているのか?」
「どんな価値を提供したいのか?」
「社員にとっての魅力や強みは?」
これらが整っていないと、どれだけ採用活動を頑張っても、本質的なHRの改善にはつながりません。
もちろん最初は採用支援として入るんですが、結果的には事業展開の話になったり、「経営パートナー」的なポジションでご一緒したりするケースもあります。
━━ プロジェクトの支援の際に意識していることはありますか?
実際に企業様と関わり始め、最初にお伝えするのは「まず、一番困っているところから手をつけましょう」ということです。綺麗事や理想論ではなくて、「目の前の現場に根ざしたアクションを最初にやる」それが一番大事だと思っています。
そして最初から正論をぶつけるんじゃなくて、一緒に現場を動かしてみることが何より重要です。とにかくまずは、コミュニケーションを始めさせてもらうことが何より大事です。
◆トレジャーフットでのHRプロジェクト
━━ 実際にトレジャーフットでの案件もそのように動いていただきましたね。
例えば、鳥取県の企業さまの事例でいうと、最初の半年〜1年は、正直あまり大きな動きがなかったと思います。それでも、代表の方が継続的に向き合ってくださって、1年経ったあたりから大きく変化が見えてきました。
月2回のミーティングを通じて、現状のインプットを重ねていくと、経営者の方も本当に大きく変わっていくんだということを実感しました。48歳くらいのベテラン経営者の方だったんですが、それでも「もっと良くしたい」という思いを持って、前向きに取り組んでくださる姿勢がとても印象的でした。
例えば、最初は「外国人採用なんて絶対に無理だ」と仰っていましたが、時間をかけて丁寧に対話していく中で、徐々に変化が起きてきたこともあります。特に地方におけるHR支援の鍵は、コミュニケーションそのものだと、強く感じています。
━━ 成果としてはどのようなものだったのでしょうか?
まず、これまでずっと採用ゼロだった企業が、2〜3人の採用に成功するようになったということです。これは回数を重ねるごとに見えてきた変化で、自分自身にとっても非常に手応えを感じた出来事でした。
採用ができるようになった理由は、会社の「強み」や「見せ方」を丁寧に整理して、興味を持ってくれた候補者の方に正しく伝える準備ができたからです。
特に、チラシやIndeedなどのオンライン媒体を活用して採用できたというのは、大きな意味があります。リファラル(社員紹介)ではなく、外部からしっかりと応募を獲得して採用に結びつけられた、これはまさに「採用の仕組み」として結果を出せた証だと感じています。
もうひとつは、社員の巻き込みです。「私たちの会社にとって、本当に大事な価値観って何だろう?」「それを日々の行動にどう落とし込む?」といった問いを、社長や社員と一緒に対話しながら整理していきました。その中で若手社員たちが「こういう考え方もあるんだ」と理解を深め、自発的に行動が変わっていったケースがありました。これは、会社の行動指針を一緒に作るプロセスの中で起こった変化です。結果として、社長から「社員の行動が変わってきた」と言ってもらえたときには、やっぱり大きなやりがいを感じました。
これらは、HR支援をしていて本当に意味があると感じるポイントであり、自分の中でも大切にしている実績です。
ーー 渡部さんご自身も、自社で若手と接する機会も多いですよね
プロフェッショナルとしての説得力という点でも、これは自分の中ではすごく大事にしているポイントです。会社を経営しながらHR支援にも携わっているので、ある意味自社そのものが「実験の場」になっている感覚があります。
CHROの立場を持ちつつ、同時に経営としても実務を持っている人が、コンサルとして外に出ていくという形は、正直あまり聞いたことがないです。だからこそ、少し珍しい存在になれるかもしれないなと思っています。自社で成果を出したものをクライアントにそのままフィードバックするというのは、他のHRコンサルの方々にはない価値だと思っています。
実務の中で、失敗も含めて試行錯誤しながら、それを他者に伝えている人 ━━ そういう方こそ信頼できるなと思うし、自分もそうありたいと思っています。
だからこそ、今の情報、今の現場感覚がある人が支援するということはとても重要だと考えています。それは、自分をコンサルとして使ってくださる企業の経営者の方々にも伝えたいし、これから同じような立場で活動していきたいと思ってくれている人たちにも、大事にしてもらいたい観点です。そういう意味でも、僕はできる限り「同じ目線で話せるコンサル」でありたいです。
AI領域での取り組み
━━ 現在注力している「AI領域」の取り組みについて教えてください
はい、まず私たちがやりたいことは、「AIの民主化」です。
日本においてはまだまだ進んでいるとは言えない状況だと思っており、最終的には、もっと多くの人が“クリエイティブな仕事”に集中できるようになったら嬉しい、そう思い取り組んでいます。
なので、最初に考えるべきなのは、社員がどう使うかよりも、まずは代表がAIをどう使えるのかという視点です。トップが理解していないと、社内に浸透していかないのでそこを一緒に考えていくのが一番いいと思っています。
そこで、今後「そもそもAIで何ができるの?」という初歩的なことから、「何も分からないんだけど、どうすればいいの?」というような漠然とした不安に対しても、簡単な勉強会を開いたりしてサポートできるような仕組み作りを考えています。
━━ プロジェクト支援での活用はどんなイメージでしょうか?
プロジェクト的な視点で言うと、これまで通り、採用や育成の入口から、AIを活用していく流れが自然だと思います。私へのご相談としても、これまで通りHRまわりの課題についても、引き続き気軽にご相談いただいて大丈夫です。
私の理想は、コンサルがいなくなった後も、内製化でき自走していく状態です。だからこそ、最初は私が入って伴走しますが、中期的には、「AIに聞けばこういう答えが得られる」という状態にしておいて、コンサルまでいかなくても相談できる“相手”としてAIを使えるようにする。また、クリエイティブなどの制作面も、AIと組み合わせて効率化していけます。
そのうえで、「もっと深く知りたい」「伴走しながら進めたい」となったら、人に聞ける状態というバランス感覚が重要かなと思っています。そうした意味でも、AIと人、コンサルの関係性をきちんと整えて、企業の中に残っていく仕組みをつくることが、今自分の中で大事にしている観点ですね。
渡部さんが考える未来
━━ 最後に、渡部さんが考える「今後」についてを教えてください。
ありがたいことに、最近では経営企画の領域まで踏み込んで関わらせていただく案件も増えてきていて、「会社全体をどうしていくか」といったラフな相談も受けることが多いです。
「経営コンサル」って言うと、すごく堅苦しい印象ですが、そういった相談を気軽にできるような存在でありたいな、というのはすごく思っています。
長期的な視点で言うと、やっぱり地方で面白い仕事がもっとできたらいいなと思っています。まだ「地方に仕事がある」「地方におしゃれで魅力的な町がある」といった環境が足りていないので、移住してきたけど都心に戻ってしまう人も多いと思います。都会にはコンテンツが溢れていて、刺激も多い。東京にいるほうが「楽しい」と感じる人が多いのも事実。だからこそ、もっと全体視点で社会を見られる人が増えるといいなとも思っています。
おわりに
HRは経営と切り離して語れない ━━ 渡部さんの言葉通り、人と事業を同時に“面白く”する視点が終始際立ったインタビューでした。地方で採用に悩む、あるいはAI活用に二の足を踏む企業こそ、一度カジュアルに相談してみてはいかがでしょうか。
トレジャーフットには渡部さんのように、共走してくれるプロ人材が揃っています。以下よりお気軽にお問い合わせください。