【代表インタビュー】地域活性のOS「T理論」が描く未来とは

私たち株式会社トレジャーフットは、創業以来「新しい働き方を想像し、地場産業の発展に貢献します」というミッションを掲げ、多彩な事業に取り組んできました。そして、2025年2月、従来の経営理念およびMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を「Belief(ビリーフ)」と「Principle(プリンシプル)」という理念と行動規範にリニューアルいたしました。(詳細はこちら
第2創業期を迎えたトレジャーフットは、さらに地場産業の課題解決へ向けて進んでいくために「T理論」を提唱しています。

では、このT理論とはどのような理論なのでしょうか?
今回の記事ではT理論と実際に進んでいるプロジェクトについて、代表取締役社長である田中へインタビューを行いました。

話し手

田中祐樹(たなか ゆうき)
株式会社トレジャーフット 代表取締役社長
新卒で株式会社セプテーニ入社後、マーケティングの力をローカルで活かすために沖縄県へ移住。地域密着メディアを運営する株式会社パムローカルメディア代表取締役社長に就任し、地域課題の解決に奔走。その後、株式会社ベネフィット・ワンにてサービス開発部部長代理 兼 新規事業開発の責任者を経て、2018年3月に株式会社トレジャーフット設立。

■T理論とは

ーーまずは、改めてT理論について教えてください。

田中:T理論とは、トレジャーフットが行っている地域活性や地方創生に関わることを示している言葉です。地域活性や地方創生という言葉自体は、皆さんもよく聞くことが多いと思いますが、現場では「何を」「どう実行するか」が語られにくいのが実情だと考えています。T理論はそこをすべて言語化した設計図です。
私たちトレジャーフットの事業である ①外部人材活用(事業共走部)、②人材育成(地域共走部)、③コミュニティ形成(地域共走部)、④ローカルファイナンス(金融事業部) の4つを同時に、そして深く1つのエリアへ実装します。

外部人材であるプロとともに事業を興し、軌道に乗ったら地元の方へ仕事とノウハウを移管します。さらに挑戦者同士がつながり続ける土壌をコミュニティで整え、資金調達も域内で完結させる。こうして 「稼ぐ → 育てる → つながる → 投資する」 という循環を止めずに回す仕組みを OS のように組み込む。それが T理論です。

ーーこの4つの事業を個別に進めるのではなく、1つにまとめるのは何故なのでしょうか?

田中:単発で支援を行うだけでは資本も人も地域外に流れてしまい、返ってくることがありません。私はこれを「たらいの水」のような物だと考えています。仕切りがまったく無いたらいでは、水をかき寄せても全部流れ出てしまいますよね。これは事業も同じです。外部人材活用だけ、コミュニティ醸成だけを行う形になってしまっては波は返ってきません。4つの事業をワンセットで動かし、狭く深く取り組むことで資本や人という波が何度も地域へ返ってくるようにしたいんです。

これらは全国で薄く展開するよりも、特定の地域に集中して実行するほうが効果的だと考えています。そのため、県単位どころか市町村単位でも現地で資本の循環率を高めながら、地域活性を日本各地へ拡大していきたいと考えています。

■トレジャーフットと佐賀モデル

ーートレジャーフットではT理論の実装地として佐賀県を選択しています。佐賀県を選んだ理由を改めてお聞かせください。

田中:大きく3つあります。1つめは行政案件での協働という偶然の出会い、第2に私の父の故郷という個人的な縁、最後には魅力度ランキング最下位という「伸び代」です。T理論はどこでも再現できますが、最初に深く腰を据えられる場所として佐賀が必然だったと考えているんです。

T理論は将来的な事業スキームとしてフランチャイズ化できるような仕組みにしたいと考えています。既存の地域活性で成功している事例を見てみると、大概が素晴らしいキーマンを起点にして、地域が元気になるということが、従来の地方創生モデルなんです。つまり、人ありきという状態です。ですが、私は全部再現性があるものにしたい。だからこそ、T理論は特定の地域のためではなく、すべての地域にフィットしたものにしようとしています。

なので、会社としての事業戦略という部分、そして縁から繋がって私自身の生き方がある場所が佐賀であると思っているため、佐賀県にT理論を実装しようとしています。

2025年1月にフル実装を宣言してからは、県庁・金融機関・市役所が連鎖的に動き、地域全体で「一緒に成功事例を作ろう」という空気が高まりました。

ーーその確信を得たきっかけは何でしたか。

田中:「波が返ってきた」と感じたときです。地域により深く入る覚悟を決めたことで、地域の恩恵を受けやすい状況になりました。

たらいに水を張って手前に押すと、仕切りがあれば波が壁に当たって戻ってきますよね。これまで全国規模で「地域を元気にしたい」と広く唱えても、波がどこに返ってくるのか分からない、あるいは返ってこないことが多かったんです。ところが佐賀という仕切りをはっきり設け、T理論を集中的に回し始めた途端、その波がしっかり返ってくる実感を得られました。

具体的には、県庁と一緒に取り組みを進めることで銀行と繋がりを得られました。さらに銀行の紹介で市役所にもつながり、市からはオフィスを借りられました。こうした連携が短期間にぐるぐる回り始めたんです。地域の経済圏は顔の見えるネットワークで出来上がっていますから、そこに深く入り込むほど資金も情報も循環しやすくなる。まさに「たらいの水」が返ってくる感覚ですね。
数値として大きな成果を語れる段階ではありませんが、半年でこの波を感じ取れたこと自体が大きな収穫です。

■T理論の持つ課題とは

ーー逆にT理論の展開で課題を感じた部分はありましたか。

田中:1番の課題は時間がかかることです。正直なところ、T理論が完成した状態を明確に定義するのは難しいんです。もし定義するとしたら、そこに住む市民のみなさんが「この街、最近なんだか元気になってきたね」と肌で感じられる瞬間、つまり 経済活動が活発になり、雇用が生まれ、人が移り住み、地産地消が進み、コミュニティが根づいて挑戦者が増える……。この一連のエコシステムが回り出したときだと思います。

ただ、その状態まで到達するには 1年では到底足りません。2年でも厳しい。佐賀で本格的に取り組み始めてまだ半年ですが、「もし10年たってようやく完成が見えたらどうしよう」という恐怖は常について回ります。10年後に次の理論を開発しようとしたら、完成までにさらに時間がかかる。そんな気の遠くなる話にもなりかねません。

とはいえ、地域づくりは時間がかかるものだという現実も受け止めています。問題は「実装に時間がかかる」と聞いた瞬間に、多くの事業者が尻込みしてしまうことです。誰もボランティアで会社を運営しているわけではありませんし、ビジネスとして継続する以上、経済性は不可欠です。

そこで私は、少なくとも 3カ月から半年で「経済循環の入り口」を作れるモデルにしなければならないと考えています。
早く、しかも再現性高く稼げるスキームを組み込み、地域の皆さんが「これなら食べていける」と実感できる仕組みを整える。これも大きな課題だと感じています。

■T理論が描く未来

ーーT理論を活用した先の未来についてはどのように考えられていますか。

田中:T理論の未来を一言で言えば「地域活性のOSとして全国にインストールしたい」と考えています。T理論はパソコンで言うところのOS、分かりやすく言えば「Intel Inside」のステッカーみたいなものにしたい。例えば、街を訪れた人が「あれ?なんでここはこんなに活気が出てきたんだろう」と感じたとき、さりげなく T理論のマーク がお店や会社に貼ってあって、「ああ、ここはT理論が入ってるんだ。だからなんだ」と納得してもらえる、そんな存在になりたいんです。

表に立つのはあくまで地域の人と企業。私たちは黒子で構いません。OSとして裏で継続性を支える。そして全国どこへ行っても、「自分が好きになる街には、いつもT理論が入っている」と言われるようになったら最高ですね。

ーーT理論を代表として先頭で引っ張っていくうえで大切にしている心情があれば教えてください。

田中:いちばん大切にしている心情は「宝物は足元にある」という言葉です。社名そのものですね。地方へ行くときにも、そして人と向き合うときにも、この考え方を軸にしています。
人間はつい 「もっと儲かるもの」や「誰かが欲しがっている新しいもの」 に飛びつきがちですが、私は「すでに持っているもの」 を並び替え、組み替え、整頓すれば地域は元気になれると信じています。だから外から輸入するのは 知識と経験だけ。人材も資源も土地に根づいた企業も、すべて足元にある宝物です。T理論は、その宝物を活かすためのモデルであり、私たちトレジャーフットが実践していることの結晶と言えます。

だからこそ、T理論はトレジャーフットが行っていることそのものであり、大切にしたいOSなんです。

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