最近「複業人材」という言葉を聞く機会が増えたという方も多いのではないでしょうか。「複業人材」の実態を理解していただくために、その日常に迫ります。
今回は、トレジャーフットでプロ人材として活躍していただいている雨宮百子さんにインタビューを行いました。
雨宮さんは、日本経済新聞社の記者や出向先の日本経済新聞出版社(現日経BP)で編集者としてご活躍され、現在はベルギー・ルーヴァン経営学院にて欧州ビジネス・経済政策を学びながらエディターとしてもご活躍されています。
今回は、世界に出てみて感じた日本の立ち位置、海外で生活するなかで興味がでてきた日本の中小企業についての思いや、これからの時代の働き方についてお話をお伺いしました。
ーー自身のスキルを地方の企業に生かしていきたいと思ったきっかけは何でしょうか?
ベルギーに暮らすなかで、日本人の自分はマイノリティになりました。また、円安などがきっかけで、国の価値と自身の価値(興味のもたれ方)の関連性を深く感じました。そうすると、経済政策や政治が自分と深く関連していることに気付いたのです。
海外で今後も生活していくことも視野にはいれていますが、自分の両親や大事な友人とかもやっぱり日本にいる。帰るべき大切な場所の一つが日本だと改めて気づいたときに、日本全体が良い方向に向くような手助けができたら面白そうだなって思いました。
今まで取材や旅行を含めて様々な方とお会いして、日本全体の経済を支えているのは地方の中小企業だと気が付きました。
大企業より圧倒的に割合が大きい地方の中小企業が変わることによって、日本が良い方向に変わっていく可能性が高いんじゃないかなと感じたのです。また、大学時代の同期など、仲間が事業継承などで悩む姿も身近にみてきました。課題は山積みだけど、変化に立ち向かい、変えたいと思っている彼らと一緒に何かポジティブな活動ができたら面白そうだと思ったのです
もちろん、大企業の方が社会に与えるインパクトは大きいかもしれません。しかし、、地方の中小企業の方が、人数が少ない分、本気で変わろうって思った時のスピード感が早いんじゃないかなと思います。それを一緒に見て体験していくことは私にとっても学びがあり、すごく面白いところかなと思いました。
――海外生活で気づいた日本の魅力について教えてください。
ベルギーには、日本人が少ないです。異なる文化に触れることで日本の良さを改めて再発見した部分もあって、 日本国内にいるだけでは日本が持つ本当の価値が見えないこともあるということを痛感しました。
具体的な例を挙げると、先日はじめて南フランスでスキーを経験しました標高が高く日差しが強いため、雪が氷みたいに硬く、日本と比べると滑りにくい状態で衝撃を受けました。しかし、現地の人に話を聞くと、これが当たり前で「日本のパウダースノーは最高だ」「日本は夏ではなくて冬に行きたい」など言ってくれました。
しかし、日本にいるとパウダースノーの価値にはなかなか気づかないですよね。
日本人にとって当たり前のことでも、世界から見たらすごい新発見に溢れています見えていないけれど本当はすごい価値があるものっていうのを発掘して、それを一緒に面白いよって伝えるお手伝いの伴走ができたらと思っています。
――日本で仕事していた時から大切にしている価値観はなんでしょう?
仕事をする上で大切にしている価値観としては成果を出すことです。
私の働いていた出版社では単純に売れたから素晴らしい本だというわけではなく、売れていなくても、世の中に出すべき本を出版するといった考えがすごく好きでした。
とはいえ自分が出したいと思う企画を通すためには、ある程度売り上げや利益などの目の前の数字や結果抜きには語れません。
自分がやりたい企画をやるために、当然ですけど結果を出していないと企画会議を通しにくくなります。なので結果を出して売れる本を作るっていうのはすごく重要視していました。
しかし売れる本を作るということは、当然答えがないことであって方程式があるわけじゃない。何をすればいいか、なぜ人はどうしてこれを買うのか……。実際に読んでみて考えたり、書店に行ってみたり、そういうことを重ねながら仮説を立てて検証していきました。
その成果で物事を図り、自分に対してもフィードバックをするっていうところはすごく大事にしています。
――ベルギーに暮らして変わった働くことに対する価値観はどう変わりましたか?
変わったというより驚いたことが、ベルギー人は仕事の位置づけがすごく低いことです。
もちろん仕事もしっかりやってるけれども、趣味のギターのために学校に通ってますとか……。仕事と趣味のギターの割合と同じぐらいなんですね。
仕事においても、仕事上の会話をすることの方がほとんどないので、雑談みたいな「面白み」がなかったら、ただのつまらない人になってしまうのです。
だからそこのバランスっていうのは改めてはっとさせられました。私は日本にいる時は、労働時間とかその何時まで働いて……とかを考えたことがありません。しかし、こちらでは仕事は仕事って捉える方が多い。家族との時間とか友人との時間を楽しむみたいにかなり切り分けてる人が多いんだなっていうのは発見でした。
――ご自身が考える働き方のビジョンについて教えてください。
私は今までビジョンを割とはっきり決めて動くタイプでしたが、ベルギーに来てからそんなことを考えている人がほとんどいないことに気づきました。
なのであえてビジョンみたいなものは自分に課してなくて、その瞬間自分が楽しいか楽しくないかということを重視して生きるようになりました。
自分が今生きる上で大事にしていること、をあえて綺麗な言葉でまとめたことを言うのであれば、「Edit The World」を掲げてます。
私は、書籍の編集や記事執筆を通じて、色々な「好き」を体験する中で、これらの抽象度を上げたら、何になるんだろうと感じました。
そのときに今たどり着いてるのが、人の可能性を見てみたいというところです。異質と異質がぶつかって、イノベーションが生まれる瞬間はわくわくします。
そういうのが生まれる場に立ち会いたいと思っています。書籍作りにおいても、誰かが本を読んでひらめきがあったらそれはそのイノベーションに関わっていることになるし、記事も同様です。なので私が今関わっているお仕事の全ては、「Edit The World」に集約できるかなとおもいます。
――最後に、雨宮さんが考える「自身の働き方」について教えてください。
今の世界では、何が起きるか正直わかりません。
そうした状態のときに、どこにでも行って働けるような自分にしておくことが、まずはリスクヘッジの観点で大事だと思います。
アフターコロナの世界を見るたびに、沢山の国にいきました。「この国元気だな」と感じたり、「ちょっと精神的にメンタルやられてる人多いんじゃないか」と感じたり……。
コロナでも証明されたように、企業であっても、一つの企業で解決することなんてなくて、どこかで戦争が起こったらそれは必ず世界に影響が広がる。そして、個人にもつながる。世界と自分の生活はきっても切り離せないわけです。
だから、自国や企業だけの視点ではなく、グローバルで何が起きてるのかを考えなきゃいけないと思っています。それが、この動きが速い世の中のなかで、自分の身を守り、生き抜くための方法なのではないかと感じています。
そのためには、やっぱり自分が足を動かさないと、判断できません。だから私は色々なところに移動して、移動をしながら違いや発見を価値として発信していきたいなと考えています。