今回はWork[お仕事]の記念すべき第一弾として、障子紙の生産・日本一の山梨県市川三郷町で150年以上前から和紙製品や障子紙を作り続けている老舗和紙メーカー・金長特殊製紙株式会社の取り組みをご紹介します。
障子紙が衰退していく中で、現代の日本人の暮らしに再び和紙を取り入れてもらえるように立ち上げた新ブランド「糸落水®︎ito rakusui」。『21世紀のSHOJI』として「糸落水」を世の中に広げていくために、2019年8月よりGoing・Going・Localの複業キャストを活用し「広報・PR」と「HP・チラシの英訳」に取り組みました。
今回は、そんな金長特殊製紙株式会社の専務取締役 一瀬 浩基さんに、新ブランド「糸落水」に込められた想いや、Going・Going・Localを使ってみた感想などのお話を伺ってきました。
金長特殊製紙株式会社 専務取締役 一瀬 浩基さん
1979年生まれ、山梨県出身。専門学校卒業後、エコール・キュリネール国立 辻製菓専門カレッジにて職員として製菓・製パンの指導。家業である和紙製造メーカーに6代目として入社。平安時代から日本の暮らしに合理的かつ情緒的に使われてきた素材を現代住宅にも継承すべく、「糸落水®︎ito rakusui」ブランドを開設。
◾︎金長特殊製紙株式会社 『糸落水プロジェクト』
【課題】
(1)特殊技術で開発した和紙で新ブランド「糸落水」を立ち上げたが、情報の発信が弱い
(2)インバウンド向けに訴求したいが、英語のツールがない
【プロジェクトに参加した複業キャスト】
(1)広報・PR担当:長行司 季子さん
(2)HP・チラシの英訳担当:藤代 郁子さん
ーーまずはじめに、「糸落水」ができるまでのお話を教えてください。
一瀬さん:弊社がある山梨県市川三郷町は、障子紙の生産・日本一の和紙の産地です。これまでは、障子紙だけ作っていれば生計が成り立っていましたが、35年程前から障子紙は少しずつ右肩下がりになってきました。障子紙は破れやすく貼り替えも大変で、なんとか「強さ」を出せないかと考えていた父(現在の社長)が、和紙と和紙で織物を編み込む技術を開発し、特許を取ったのが始まりです。
障子紙はホームセンターでロール状で販売されているので、せっかく織物をいれた「糸和紙」を作っても、その良さが売り場で全然伝わらないんです。普通の障子紙と並ぶと、ただ単価が高いだけに見えてしまい、なかなか量が出ず模索を続ける20年間でした。
今から3年ほど前に展示会に知人が持ってきているメッシュ素材が目が止まり、試作してみたところ現在の「糸落水」の表情が生まれ、そこから本格的に「糸落水」の開発が始まりました。
一瀬さん:「糸落水」を開発した後、どうやって販売するべきか悩みました。素材としては「いいね」という言葉をいただけるものの、結局、用途がわからないと実際に使ってもらえないんです。「障子の代わりにガラス面に貼り付けることができたら可能性は無限に広がる」と考えた社長は、障子紙の経験からできるだけ簡単に貼り付ける方法を模索していました。
そんな中、去年の夏にふと「もしかしたら、水で貼れるのでは?」と思い、試してみたら簡単に貼れてしまったんです。実績も試験データもなかったのでまずは自分の家のガラスに貼ってみて、1年間ちゃんと貼れたら商品化しようと決意しました。
ーー1年は割と長い気がするのですが、なぜ1年待ったのですか?
一瀬さん:一般的に障子の貼りかえは周期が1年なんです。障子紙の代替品として使ってもらうためにも、まずは1年。「糸落水」ブランドを立ち上げて販売を強化することで障子紙の売上を補えると感じ、まずは今年の1月10日糸の日に「糸落水」のHPを立ち上げました。
ーー今回、Going・Going・Localを活用しようと決めた理由を教えてください。
一瀬さん:理由は色々ありますが、もともとは市川三郷町という町自体が民間企業の取り組みを非常に熱心に応援してくれるので、その想いに対して何かお返しをしたいという想いがあり、「地域と企業の関係」を考えていました。また障子紙の衰退で苦しい時代になったからこそ、官民連携・和紙メーカー同士が手と手を取り合う必要があると思っています。
そんな想いが根底にある中で、「人と人の繋がり」を大事にしています。
中小企業診断士の紹介で「トライアル認定商品」としてテーブルクロスを山梨県に認めてもらえたり、その認定がきっかけで出会った中小企業基盤整備機構の方の提案で「地域資源認定」に挑戦し、認定が下りるように市川三郷町が「ふるさと名物応援宣言」をしてくれました。
そして私が挑戦している姿を見て、「金長さんがやってできたなら、うちもやろうかな」と他の和紙メーカーさんも挑戦するようになり無事認定が下りたんです。人と人の繋がりはとても大事だなと。これまでの取り組みの中で出会った信頼できる方々からGoing・Going・Localの紹介を受け、まずは話を聞いてみようと思いました。
ーーGoing・Going・Localの話を聞いてみて、率直にどう感じましたか?
一瀬さん:自分たちに足りないことを補える気がしました。「糸落水」最初の商品は店舗向けのすだれでした。次は一般家庭でも使える物を作りたくて、何としてもガラスに貼る和紙を商品化したいと。Going・Going・Localと出会ったのは、ちょうどその商品化に向けてクラウドファンディングの準備を始めた時だったのでタイミングが非常に良く、「ここは攻め時だ」と、複業の方の力を借りる決意をしました。
これまでは自分のFacebookでの情報発信や展示会でお会いした方の口コミで広がっていたので、もっと多くの方に情報を発信していきたい、また日本の伝統文化を海外の人にも知ってほしいという想いから、「広報・PR」と「HP・チラシの英訳」をお願いすることにしました。
広報・PR担当:長行司 季子さん
報道業界出身。現在は独立し複数の企業で広報・PR業務を担当。クライアントとのコミュニケーションを密に取りながら、社会的な課題を解決できるような戦略PRをメイン に活動。
英訳担当:藤代 郁子さん
大学職員、翻訳家。大学職員として働く傍らフリーランスで英語翻訳家として活動。
藤代さんのインタビューはこちら
Going・Going・Localが掲げている「地域と繋げる」というテーマに共感したのも理由の1つです。地域で頑張っている人と一緒に少しずつ形にしてきた経験から、微力ながらGoing・Going・Localを応援したいという気持ちが湧きました。 あと辻さん(Going・Going・Localマネージャー)が同郷ということもあり、共通点があると共感度が増してきますね。
ーー『糸落水プロジェクト』が始まって1ヵ月経ちました。いかがでしょうか?
一瀬さん:複業で手伝ってくださるお二人に直接お会いすることで、どういう形で動いているのかがわかりました。そして、お願いしたこと以上のサポートも目に見えてきていて、まだ結果が出る前の段階ですが、すでに満足しています。
今回複業でお願いしたお二方に、何かお礼をしたいという気持ちになるくらい、動いてくれていて、とても楽しくできてます。
ーー最後に、今後のビジョンを教えてください。
一瀬さん:これまでは主にホームセンターで販売してきましたが、これからは価値あるものを価値あるところに、販売チャネルを変えて「糸落水」ブランドを確立していきます。
『21世紀のSHOJI』というキャッチフレーズはデザイナーさんが作ってくれました。これから和紙の文化を継承していくためには、みんなに刺さるキャッチーな言葉と新しいスタイルが必要で、それを提案していくことで和紙メーカーとしての使命が果たせる気がしています。
障子が衰退してしまったのは、破れたら貼り替えないといけないという義務感が手間だったからで、「糸落水」のような意匠性や遊び心を入れることで「貼る」という行動自体が楽しくなる。
次は「障子を貼る」という行動自体がエンターテイメントになるような仕掛けや、紙にはない立体感をどう付け加えるかを考え、家業である障子を繋いでいきたいです。
父はとても職人気質なので、次は自分が売る番です。普段は親子喧嘩が多いですが、「糸落水」は父が特許をとったのが始まりなので、生きているうちに世の中にフォーカスしてもらうことが親孝行に繋がると思っています。
取材を終えて
取材当日は、英訳担当の藤代さん親子と一緒に市川三郷町の工場へ伺いました。
取材をしている横で、「改行位置によって意味が変わってしまうので」と藤代さんは英文を追加したサイトを丁寧に校正確認。もともとお願いしていた業務は英訳したテキストを納品するところまで。それにも関わらず「改行位置によって意味が変わってしまうので」と納品後も細部に気を配る働きぶりに、一瀬さんもHP制作担当の高野さんも、とても喜んでいました。
▼藤代さんが英訳した糸落水公式ホームページ
https://itorakusui.com/en/
キーワードは『21世紀のSHOJI』と『平面から立体へ』。
親から子へとこれまでの技術や想いが受け継がれ、伝統を活かしつつ新しい和紙の可能性を切り開く。
まずは自分が挑戦し成功することで地域に波及効果が生まれ、これまでお世話になった方々への恩返しが地域の活性化に繋がると語る一瀬さんをみて、Going・Going・Localがその想いを形にする1つの手段として関われたことをとても嬉しく思いました。